それでも逐次通訳が大切な理由

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最近の通訳界にもAIの技術が押し寄せてきています。AI字幕、瞬間翻訳ガジェット。 そんな中でも、「逐次通訳」はまだ現場で求められていて、その理由を日々感じます。発注側が設計側に説明するとき、通訳者の訳し方と、その回答を確認しながら話を進めたいようなのです。会議の効率化のため、同時通訳を提案したいときもありますが、逐次通訳を続けている理由も、事情もあります。

逐次通訳とは、話を聞いてメモを取り、話者が話し終わった後で訳す方法です。キャリアの階段は逐次通訳から同時通訳と進みますので、逐次通訳者と聞くとエントリーレベルに聞こえます。しかし実際は、数秒から数分にわたる話者の話を殴り書きのようなメモから再現する必要があります。これをリテンションと呼び同時通訳とは少し違った能力が求められるのですよ。

会議の参加者がわたしが訳出するまでの数秒の間に「何と言ったの?」という目で純粋に見つめてくる緊張感の中で行われます。日々、記憶力、集中力のための脳の栄養補給も大切です。そして緊張癖のあるわたしには、大腸のコントロールも試される仕事です。


通訳は倫理の仕事

でも通訳は単なる「言葉だけの仕事」でもありません。複数の人がお互いに直接話せないとき、通訳者はその間に立つ「橋」です。どちらの味方でもなく、どちらの意見にも偏らず、倫理の仕事でもあります。たとえ片方があっけらかんと間違っていようと、もう片方が攻撃的で嫌味でも正論を述べていたとしても、感情の増幅器ではありません。忍者の隠形術のように、ノートを持ったまま気配を消すのです。


ただ、この仕事はよく誤解されます。
バイリンガルの人は「私もできるよ、その場で訳すだけでしょ」と言います。
モノリンガルの人は「通訳って、Google翻訳の人間版でしょ?」と思っています。
実際、通訳者のクラスは、どのくらいのバイリンガルか、と測るものではありません。それぞれの会議参加者の世界に属す存在ではないのです。どちらかの言い分に重みをつけることもなく、しかし両方の立場が分かってしまう存在です。だからこそ完全に中立で、時々、きついプラクティカルジョークを繰り出す役を引き受けることもあるのです。時々、喪黒福造なのです(これはまた別の投稿で)。


さらに時々、「負け役」にならなければならない。
ジョークを訳すのが一瞬遅れて場がシーンとなったり、「そんな意味じゃない!」と訂正されたり。そんなときは、笑って、居住まいを正して、「夜明け前からバードウォッチングに出かけよう」と心に誓うのです。(通訳って体力勝負です!)


パニウツ元気

実は、わたしには秘密兵器――銀座まるかんのサプリがあります。
世の中には能力強化薬物があります。通訳の訳出にも薬物で効果が出ることはあるかなと、想像したことがないとは言いません。また同時通訳だけの仕事から、同時通訳と逐次通訳混在の仕事に変わった後、リテンションが必要になりました。ただ、全然さえない時期がありました。

ある日、YouTubeで柴村恵美子社長が**「未来の青汁ウルトラパニウツ元気」**を講演前に2粒飲むと全然違うと話していたのを見たのです。朝2粒飲んで仕事を始めてみました。確かに、リテンションできる単語数が俄然多くなったのですよ。

もともとパニウツ元気は、夜起きてしまい、そのまま眠れずに朝を迎え、目覚ましが鳴る直前に寝落ちする悪循環を繰り返していたので飲み始めたものなのでした。この小さな粒が、わたしを24時間支えてくれています。(なお、Tengudoのショッピングページは現在お休み中です。)


AIが進化し、いろいろな仕事はとってかわられるのではないかと思う向きもあるようです。領域によっては、ちょっと古い技術かもしれない逐次通訳も必要なんです。 機械にはできないことがあるから。それは、何か。いろいろありますが、

「共感」――

人と人、マーケット知識と技術知識、文化と文化、言葉と意味のあいだをなめらかにつなぐ潤滑油のような存在になれること。

今日もわたしはパニウツ元気を飲んで、逐次通訳の時も潤滑油の役をこなしています。

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そんな中でも、「逐次通訳」はまだ現場で求められていて、その理由を日々感じます。発注側が設計側に説明するとき、通訳者の訳し方と、その回答を確認しながら話を進めたいようなのです。会議の効率化のため、同時通訳を提案したいときもありますが、逐次通訳を続けている理由も、事情もあります。