20代最後の歳に始めて不倫をした。
彼は、わたしとは結婚できないといった。涙のお別れをした後、マニラのマカティにあるザ・ランドマークの前でタクシーを待っていた。
あれだけ、街にタクシーがあふれているというのに、まったくつかまらない時間がある。あの時も、雨が降り出して、わたしを乗せられるタクシーはいなかった。
あの時ランドマークは2階建てだった。
今、ランドマークは3階建て。そうなって久しい。
あのときのわたしは確かに存在した。その証拠にザ・ランドマークが2階建てだったときの名残が、ロゴが2階から3階に付け替えられた埃のあとが残っている。
しかし、確かだと思っていた永遠の愛は、わたしがそう思いたかっただけだった。
「ナイーブなわたしの思い出」と思っていたことだけど、ナイーブな愛の思い出は誰でも、ひとつは持っているらしい。取り出して、手放せるものらしい。