Interpreters in Japan:よくある誤解ベスト5|「完璧なバイリンガル」じゃなくても通訳はできる

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完璧な二言語運用よりも、意味の核をつかんで前へ進める力が価値になる。直訳に迷ったら、発話の機能(目的)に立ち戻る。通訳は誤解を最短で取り除き、合意に到達させる専門職です。

通訳は「語学の達人が、話された言葉をそのまま別の言語に置き換える仕事」だと思われがちです。現場で本当に求められるのは、意味の運搬・空気の調整・合意形成。ここでは、日本で通訳をしていて日々感じる5つの誤解を、文化的背景と実例を交えて解いていきます。

誤解1:「完璧なバイリンガル」ならば通訳はできる

現実:必要なのは“完璧な二言語話者”ではなく、目的に合わせて通りやすい言い換えと、瞬時の訳出。
文化的背景:日本は圧倒的な完璧主義傾向にあり、同時に同調圧力が強く、また「完璧=プロ」という発想が根強い。現実的には国際的なビジネスの現場ではスピード、意思疎通、前進が評価軸。
実例:昨今はバイリンガルな人材も増え、モノリンガルでも、聞いて雰囲気をつかむ人が多い。全体的に、自分が期待する訳語が使われていると安心する。自動車製造業では、トヨタ生産方式のセミナーが多い。ITでは今は生成AIのセミナーが多い。新しいコンセプトは誰もが学習して積み上げていくもの。通訳はバイリンガルだが、バイリンガルが全員通訳ができるとは限らない。


誤解2:通訳は「一字一句間違わず(word-for-word)」

現実:丁寧に訳出することは大切。しかし、一字一句に注力しすぎると誤訳になることもある。通訳は目的・意図を重視して訳す。
文化的背景:日本の英語教育はアメリカ偏重傾向にあり、また「英単語=日本語」と一対一対応で覚えることが多い。「正しい訳=直訳」と思いやすいが、英語にも同義語がある。昨今の会議はアジアパシフィック圏出身者も多くなってきて、必ずしもアメリカ偏重型で話していないため、言葉の持つニュアンスにより、話者の発言の意味が変わって伝わることもある。
実例:「物事はそういう進め方をするものではない。関係者に目的を話して、合意を取って、それから作業と協力を依頼するものだ」をそのままThat is not the way to go about around here…. とすると言われた方は、叱られたと思い聞く耳を持たなくなってしまう。That does not always work. You probably need the roadmap and get agreement with the stakeholders. Then it will be easier for all of us to discuss milestones and action itemsのほうが意思が伝わり議論が進む。


誤解3:「用語さえ覚えれば現場は回る」

現実:用語は基礎。でも会議で合意に至るために必要なのは用語ではなく「誰が何をいつまでに」の部分。
文化的背景:日本の会議は背景説明・配慮表現が長く、結論が最後に置かれやすい。英語話者は結論先行を好む。
実例:生産工場の工程設計、製品設計などで各工程や各コンポーネントを訳出する際は、日本語話者も英語話者も訳語はペアで把握している場合が多い。討議・合意したいのは、その先にある。通訳は、一般用語や社内用語を覚えるのはスタートラインまでの準備だが、準備不足もある。自分を責めることにエネルギーを費やさない。ただ日本語話者の発言を訳出するときは、できるだけ結論を先出しすることで、会議参加者のエンゲージメントを保つ。


誤解4:「通訳は透明で、存在感ゼロが正解」

現実:言葉の交通整理役としてファシリテーターのように軽くタッチするほど成果が出る。
文化的背景:日本では通訳者が前面に出ることを避けがちだが、国際現場ではクロスカルチャーの交差点としての通訳にファシリ要素が歓迎されることも多い。
実例:質疑応答が渋滞。「質問は3点でした。1)コスト 2)スケジュール 3)セキュリティ。まず1)からお答えしますか?」と段取りを言語化。結果、発話が整理されて通訳の精度も上がる。


誤解5:「通訳者は辞書みたいに何でも即答できる」

現実:自分の分野であっても、技術とプロジェクトマネージメントの革新で、未知の言葉は必ず出る。大切なのは議論を止めずに、適宜カタカナでそのまま伝え、会議参加者が確認できるようにし、再加速する技術。
文化的背景:日本では「中断=迷惑」と捉えられがち。しかし誤伝達による誤解や無駄に費やされる時間を最小限に抑えつつ、エンゲージメントを保つテクニックは話者の言葉をそのまま再利用すること。
実例:旧システムを新システムに移行後、帳票作成で略語が連発。「データはBMCから5日後に抽出します」、BMCを自分が知らなくても日本語話者に「BMCは何ですか」と質問してもらう。その方が会議参加者全体の信頼関係構築につながる。


文化の“見えない前提”が通訳を難しくする

  • 暗示文化 vs. 明示文化:日本語は行間・上下関係・場の空気に意味が宿る。英語は主語と動詞に責任が宿る。
  • 発言のスタイル:最初の話者が発言を終わる前に、次の話者が発言を始めるインド、ラテン系。最初の話者が発言を終わる直後に、次の話者が会話を始めるアメリカ系。最初の話者が発言を終わってから、数秒明けて次の話者が発言し始める日本系。この場合、日本系は発言のタイミングがつかめず、発言機会がなくなる傾向があり、これが原因で会議で合意に至らないことにつながったりする。発言の遅い文化の人を守るカルチャーを作りたい

まとめ:通訳は「言葉」ではなく「合意」の仕事

完璧な二言語運用よりも、意味の核をつかんで前へ進める力が価値になる。迷ったら、発話の目的に立ち戻る。通訳は誤解を最短で取り除き、合意に到達させる専門職です。


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